2011年5月6日金曜日

もうひとつの震災ものがたり⑥

女の子の小さな宝物「ずっとなくさないように」


 宮城県石巻市立渡波(わたのは)小学校を取材していたときのことだ。
同校は校舎1階が津波にのまれながら避難所となっており、
その日、男性タレントや女性歌手が慰問に訪れた。
「本物だ!」とサインをせがもうとした子供たちは、
案内役の職員に「時間が限られているのでできない」と拒まれた。

 一人の少女はがっかりした表情を見せたが、
恥ずかしそうに「サインして」と記者に近づいてきた。
「有名人じゃないんだよ」と説明しても「いいの、集めるのが好きだから」と、
真新しいドラえもんの表紙のノートを差し出した。

 支援物資でもらったのだろう。
パラパラめくってみると、どのページも真っ白だった。
1ページ目にぎこちなくサインした。
「大事にする」。顔を赤らめながら少女は言った。胸が痛んだ。

 「いいもの、見せてあげる」。
別の日、校庭で声をかけた4年生になる別の女の子は、
和紙でできた花柄の小箱から金色の2つのピンバッジを取り出した。

 「アメリカの人が私と弟と友達にくれたの。
『日本中で3人しか持っていないから自慢できるよ』って」。
行方不明者の捜索やがれき撤去のため学校周辺に入っていた
米軍の一人から去り際に贈られたという。

 「弟のも持ち歩いているの。ずっとなくさないようにね」。
がれきから見つけたという小箱に、大事そうにバッジをしまった。

 女の子は津波で親友を亡くした。
「学校に入って最初に話しかけてくれた友達。
一緒に登校したり、勉強したりしたのに…」。
自宅も流され、体育館で避難生活していたが、新しい友達もできた。
4歳の女の子で、体育館で姉のように寄り添って絵本を読んであげていた。

 4月から別の学校へ転任が決まった女性教諭は子供たちに語り掛けた。
「地震でたくさんのものを失いました。大切な人、おうち、思い出の品。
でも優しい心、大切な気持ちはなくなりません」

 被災地の人たちは本当に多くのものを失った。
それでも笑顔を絶やさず、新しい宝物を見つけ出そうとする子供たちがいる。
長く困難な道かもしれないが、復興に向かう被災地を見つめていきたい。
子供たちが教えてくれた大事な何かを、ずっとなくさないように。
(桜井紀雄・産経新聞より)

 この少女を初め、被災地の方々が失ったものは多い。
と同時に、本当の大切な心を得たのではないか。
私たちも、その心を感じとれる感性を失わないようにしたい。

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